英語圏では、顧客がベンダーやサプライヤーに対して対等かつ敬意を持って接することで、相手も最善を尽くすという暗黙の了解があります。ただし、プライドが高いベンダーや自分の考えを曲げないサプライヤーなどが相手である場合、丁寧かつソフトなアプローチでは埒が明かないこともあります。そうした場合に、顧客としての立場を直接的に主張する表現を使ってみることも一つです。ただし、「こちらは客だぞ!」という高圧的な態度ではなく、あくまでビジネスパーソンとして常識的な範囲で、顧客の力を利用します。
皆さんの仕事相手の中にも、こちらをイラッとさせるベンダーもいることでしょう。しかしそこは冷静に、仕事の目的を達成することができれば、それがこちらの勝利です。
相手との暗黙の了解が成立している間の「ソフトな表現」と対比させる形で、「ダイレクトな表現」をご紹介していきます。
戦略その1: 件名から直接的かつ具体的に伝える
【件名から直接的かつ具体的に伝える】request for, requirement for など
“request on”と”request for”の違いを利用します。”request on”では、依頼内容のトピックのみを提示し、その具体的な内容までは伝えていないので、書き手の控えめな態度を示します。それに対して、”request for”または”requirement for”を用いると、トピックだけでなく依頼内容まで件名で伝えるため、最初から直接的に頼む(要求する)ことになります。
もちろん、普通のメールで”request for”を使っても問題ありませんが、”requirement for”の使用は気をつけましょう。
<ソフトな表現> Request on supply of XY
(XYの供給に関する依頼)
<ダイレクトな表現> Request for stable supply of XY (XYの安定供給の依頼) Requirement for stable supply of XY (XYの安定供給の要求)
戦略その2:「依頼」ではなく「要求」として表す
【相手の行動を直接的に要求する】we are going to need you to など
“ask”で尋ねれば、建前上、相手にNoを言う権利を与えることになりますが、普通のベンダーであれば、顧客からの妥当な依頼内容に対してYesと答えるはずです。しかし、もし相手のベンダーが普通でない場合、”need you to”を使って実際の力関係を示し、相手がどのような行動を取るべきかを伝えることが可能です。
<ソフトな表現> I’d like to ask you for an alternative design.
(代替デザインをお願いしたく思います。)
<ダイレクトな表現> We’re going to need you to supply an alternative design. (あなたには代替デザインを提供してもらう必要がありそうです。)
戦略その3:相手の責任回避を食い止める
【”you”を使い、個人への圧力をかける】your design proposal など
お互いを尊重し合う間柄であれば、代名詞を相手の企業名などを使うことで、相手個人への圧力を減らすことができます。(ソフトな表現を参照。)しかし、相手が自分の責任を回避もしくは無視しようとするならば、”your”を使うことで責任の所在をさりげなく指摘することができます。
<ソフトな表現> There seem to be a problem with ABC’s design proposal.
(ABC社の提案デザインには問題があるようです。)
<ダイレクトな表現> There is a problem with your design proposal. (あなたの提案デザインには問題があります。)
戦略その4:曖昧にしていた事実をはっきり指摘する
【相手の誤りを断定する】doesn’t meet our requirement など
相手の誤りを指摘する場合も、通常であれば”may”などを使って、こちらが間違っている可能性を含めながら伝えるのが普通です。しかしここではそうした可能性を排除し、相手のミスを明確かつストレートに指摘します。
<ソフトな表現> I’m afraid to say your proposal may not meet our requirements as given in the contract.
(恐れながら、貴社の提案は契約に示されている我々の要件に合っていないかもしれません。)
<ダイレクトな表現> Unfortunately, your proposal doesn’t meet our requirements as given in the contract. (残念ながら、貴社の提案は契約に示されている我々の要件に合っていません。)
戦略その5:締め切りを厳密な形で示す
【締め切りの期限に厳密さを加える】no later than など
こちらの要望を「依頼」ではなく「指示」として伝えるにとどまらず、その期限を示す上でも、”no later than”といった表現を使って遅延を認めないことを強調します。
<ソフトな表現> We would appreciate your supplying XY by around the end of this week.
(今週末あたりまでにXYを供給いただけると有り難いです。)
<ダイレクトな表現> Please be sure that we receive our shipment by no later than Friday the 15th. (遅くとも15日(金)までに納品されるように確実に手配してください。)